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#45 (けいのことではありません)安楽死という選択

At Huntington Beach, CA 2017

今日は少し重いタイトルで、Kayとは直接は関連のない話題です。

昨夜、22時近く、そろそろ翌日に備えて寝る準備を始めていたところ、

急遽知らない方から仕事用の英語のチャットソフトにメッセージが。

 

「夜遅くに本当に申しわけないけれど私のイギリスのクライアントの紹介で連絡させていただきました。日本に来てから里親になった保護犬が、この週末具合が悪くなり昨日病院に行きました。気管支炎だと診断され、抗生物質、抗炎症剤、咳止めをだされたけれど、一向に良くならず苦しそうにしています。先ほどから喀血が始まりそのうち粘液も吐くようになり怖くなってしまいました。日本語は全く話せません。どこか24時間救急で診てくれて英語ができる動物病院をご存知ありませんか。」

 

ということでした。

 

こういった依頼は通常仕事でも受けないのですが、私がボランティア活動をしている団体のわんちゃんを保護してくださったということで、こちらもできるだけボランティアでお手伝いをしたいと思いました。

 

犬は雑種で8歳、3ヶ月ごとにヘルスチェックに行っていて、聞けばかかりつけ医は私も存じ上げている、多くの飼い主さんに信頼されている素晴らしい病院でした。持病としてはフィラリアがあり軽めの陽性と診断されていたけれど(保護犬だったので)、少し前のレントゲンでもエコーでも状況は安定していて寛解も間近だということでした。すぐに、かかりつけの病院とも提携している世田谷の、これまた信頼のおける夜間救急病院を紹介しました。実際に私が電話し診療対応の可否の確認と英語での対応の確認。現在の病状を伝えると、展開によっては英語は難しいかもしれないということで私も行こうかと少し迷ったのですが、翌日から私もスケジュールがいっぱいで出張も入っていることを考慮し、私が行くのはとりあえずやめました。電話で必要なら通訳のお手伝いをすると伝えて23時の来院でセットしました。雑種のワンちゃんは15kg以下で、道のりも歩いて15分くらいなので抱いて運ぶということだったので、そこで一旦何かあったら電話して、と伝えて私は次の日の仕事の準備をしていました。

 

病院に着いたと連絡があり、獣医師はなんとか英語で意思疎通ができるから大丈夫、と連絡がありました。

検査結果を待つ間、イギリスのクライアントの話や、彼女自身の話をテキストで聞いていました。この飼い主さん(女性)はEU内のある国から派遣され日本の政府関連の機関で働く若い学者で、年末にはEUに帰る予定でした。日本ではあまり友人がおらず、この雑種のわんちゃんだけが日本で彼女が得た唯一の友人だということでした。

 

その後、連絡がないのでどうしているか気になって寝る前にテキストしてみると。

 

わんちゃんんは「左肺に心臓をも圧迫するほどの大きな腫瘍がある。腫瘍はあまりに大きく、すでに多機能不全を起こし始め、結果 血液がもう凝固しなくなるほどの影響を及ぼし、気管やその他から出血が始まり体内でも出血し、また体内で溢れた血液を圧迫された肺の影響ででる咳などをしては口からも出血している状態」でした。

 

わんちゃんはどんどんどんどん悪くなっていき、もう見ていられないほどの苦しみだということでした。

 

夜間救急の獣医師もこれだけの痛みは取ってあげられないし、酸素室にいれるなどのICU処置をできるけれど今夜中に急変の見込みが大きい、苦しいながらも飼主さんのそばの方がいいのではないか、ということでした。

 

家に帰るとしてももうわんちゃんを抱いては運べないだろうと思い、けいをおんぶして、深夜の車に飛び乗り世田谷に向かいました。飛ばしたい気持ちを抑え(安全運転第一ですよ)病院の指示のあった駐車場に車を停め、暗い病院に入って行きました。

 

深夜の待合室には、息の荒い助けを求めるような上目遣いの黒い雑種のかわいいわんちゃんと、さめざめと泣いている女性が待合室にいました。自己紹介もそこそこに獣医師と会い、念のため日本語で事実確認をしました。果たして、病状は彼女がきちんと理解していた、その通りでした。獣医師は血液検査、レントゲン、エコー検査のデータをDVDに焼いてくれ、かかりつけ医に渡すように、また彼女(夜間救急獣医師)からもかかりつけ医にすぐに申し送りをすると言ってくれました。

 

飼主さんは、こんなに苦しませたくない、今すぐ楽にしてあげてくれないかと、夜間救急獣医師に頼んでいましたが、獣医師は私に日本語で、「救急病院という施設の目的から言って安楽死対応ができない、この苦しみ方を見ると本当にかわいそうで申し訳ないと思っているけれど」と話しました。そして「飼主さんに日本での安楽死に対する一般の獣医師の考え方や行動規範は欧米のそれと異なっていることを、可能なら説明しておいて欲しい。朝になってかかりつけ医でも対応できない可能性もあることをわかってもらっておいて欲しい」と依頼されました。

 

私が車を回してくる間、獣医師と飼主さんでわんちゃんを病院の外まで運んでいましたが、もうその少しの刺激だけでもたくさんの血を吐いてしまっていました。

 

ゆっくり運転して送っている間、考えながら言葉を選びながら慎重に、「日本における安楽死に対する考え方や普及は欧米と違っていること、もしかしたら自宅で安楽死をしてくれる獣医師を見つけることは難しいかもしれない、必要なら私の友人の往診専門の獣医師に相談してみることはできるけれど、明日かかりつけ医を100%あてにすることは双方にとて難しいことになるかもしれないよ」と話しました。たったひとりの友人を亡くそうとしている今、泣いている彼女に言うにはあまりにかわいそうだと思いました。

 

結局明け方自宅に帰り、翌日の仕事を諸々リスケの依頼のメールを打ち仮眠をとりました。

8時前にはもう彼女から連絡が来ていました。

「一睡もできないくらいわんちゃんは苦しんでいる。この苦しみから解放できないのは苦しくてたまらない。」

 

病院が開く時間に私が電話して説明するからと約束し、シャワーを浴びて出かける準備をしているとまた彼女から連絡がありました。

 

「かかりつけ医が、夜間救急の獣医師の連絡を見てくれて、すぐに往診してくれることになった。

すべての状況を鑑みて安楽死という選択に全面的に賛成してくれて、その処置を家でしてくれることになった」

 

というものでした。

 

普段は予約が取りずらい病院なので、時間外に先生が往診してくださること自体、大変ありがたいことなのですが

苦痛を取り除いて眠らせてくれるということに同意してくださったことにも大変ありがたいと思いました。

 

私よりも先生が早く到着してくださったので、待たずに苦しみから解放してもらってもらいました。

私が到着した時にはすっかり痛みから解放され、何時間か前に荒い息をして私を見上げていた目を穏やかに閉じて

とても安らかに眠っているようでした。

わんちゃんはあまりに弱っていたので、注射をしてから2分と待たなかったということでした。

 

間に合わなくてごめんね、ひとりで大丈夫だった?とハグすると彼女はたくさん泣いていました。

知らない異国に来て、言葉が一切わからない中で無我夢中で状況を把握し、

愛するものをたったひとりで見送らなければいけなかったこと、

あまりにお気の毒でなかなか彼女を残して帰れませんでした。

 

かかりつけ医の獣医師が、日本語ができない彼女のために、ご遺体の手配までもしてくださったということでした。

私は早朝の時間に開いているお花屋を探し花を買い、彼女に少し何か食べるものを買ってきて渡し、

午後の手配までわんちゃんと一緒に眠ってもらいました。

外に出ると夏が戻ってきたかのような暑い日でした。

 

私は今まで「動物の安楽死」という問題に対して、はっきりと考えたことがありませんでした。

いつかその時が来たら、自然と自分でわかることなのではないかと思っていました。

 

どんな状態でも安楽死に反対する考え方があることも理解できます。

動物愛護に熱心な、私の信頼する友人もその考え方のひとりです。

 

しかし今回、彼女と彼女のわんちゃんに寄り添っている間、ずっとずっとひとつのこと、

「これがもしけいだったら」を考えていました。

そして、私には見ていられない、私には一晩以上、もがき苦しんでいるけいをそのままにはできない、と思いました。

 

治る望みがあるならいいのです。いくらでも手を打てるのならいいのです。

でもただ死を待つだけなら、こんなに残酷な苦しみ方をしなくてもいいのではないかと思いました。

その判断は飼主ひとりひとりに託されてもいいのではないかと思いました。

 

その行為は一般化されるにはあまりに危険で、

条例化するとしても状況によりすぎて煩雑過ぎて現実的ですらないかもしれません。

最愛のものからのみ最愛のものだけにしてあげられることなのではないかとすら思いました。

 

私はきっと、けいが同じ状況ならこの飼主さんと同じ決断をすると思いました。

今回のことは私が考えるためのきっかけ、準備するためのきっかけだったのかも。

このワンちゃんも具合が悪くなってからたった2日間のことでした。

往診専門の獣医師の友人に、今週どこかで連絡しておこう、いつ何が起こってもいいように。